「現代モンゴル語におけるアクセントの実験音声学的研究」
   1975年度 東京外国語大学 卒業論文 清水幹夫


目次
1)序論

2)実験方法について
 2-1)使用語彙
 2-2)インフォーマントと録音について
 2-3)再生・分析・記録装置
 2-4)「強さ」と「高さ」
 2-5)Sound Spectrograph

3)実験結果の考察に関して
 3-1)実験報告
 3-2)実験結果への考察

4)結論
 4-1)他の論文との比較において
 4-2)アクセントに関する仮説

5)最後に

6)実験資料(分析データ)

1)序論
  モンゴル語のアクセントが強さアクセントであり、常に第1音節にくるという説は多くのモンゴル語学者の間で認められていることである。I.J.Schmidt(注1), А.Д.Рυднев(注2), G.J.Ramstedt(注3)のモンゴル語学者を始めとして、モンゴル人学者であるШ.Лувсанвандан(注4)もこの学説を認めており、他にN.N.Poppe(注5), J.C.Street(注6)等も大体同じ立場をとっている。Ramstedt(注3)は、「モンゴル語のアクセントは強さアクセントであり、ハルハ方言の中でもウランバートルでは特に強い。アクセントのある音節と無い音節との間における呼気の強さの差異は非常に大きいので、アクセントの無い音節は実際の会話ではしばしばまったくわからなくなってしまうことがある。アクセントが第1音節にあって、しかもそれ程強い言語は多分他には無いであろう」と述べている。Лувсанвандан(注4)は、「モンゴル語の単語は必ず第1音節にアクセントを有しているので、第1音節の母音は、短母音・長母音に関係なく、後ろの音節にある母音に比べて遥に強くなる」としている。また、構造言語学の立場から、Street(注6)は次のように述べている。

 "If the word has only single vowel nuclei, the first of these is most prominent; otherwise the first geminate nucleus or diphthong is most prominent. By prominence here is meant a combination of stress and length; the most prominent nucleus of a word has slightly greater stress than other nuclei of the word nad is somewhat longer than less prominent but phonemically identical nuclei."

 この様に今まではモンゴル語のアクセントが強さアクセントで、常に第1音節にある(第1音節以外の母音は全部弱化する)音韻論的に無意味な所謂「無意味強さアクセント」(注7)と考えられ、疑いを挟む余地は無かったのである。ところが、最近になって音響音声学の発展の下に、モンゴル語の種々の音声の特徴を音響分析装置により明らかにしようとする者が現れ始め、アクセントに関してはロシア人研究者Герашимовчがその先端となった。 氏の論文(注8)によると、「アクセントが常に第1音節にくるとは限らない」とあり、「おそらく、モンゴル語のアクセントの特徴は非常に複雑であり、多くは強さによってではなく、寧ろ長さによって定められるであろう」と結論している。日本のモンゴル語学者である小沢重男(注9)教授は、「モンゴル語のアクセントは、強さアクセントで、その強さは、第2音節以下に長母音が無い限りは、常に第1音節にあるから、音韻論的に無意味なアクセントと言えよう。---しかし、強さアクセントにのみ支配されているのではなく、高さアクセントも関係している」とし、詳細を服部四郎博士に求めている。言語研究19号「蒙古語チャハル方言の音韻体系」の中で、服部博士はチャハル方言におけるアクセントの特徴を述べているが、強さがやはり原則として第1モーラ(注10)にあるとし、その例外は、第2モーラ以下に長母音、又は、二重母音がある時となっている。注目すべきは高さに関しての考察であり、数々の規則を示していることである。  それによれば、
 a)最初の長母音または二重母音に降り音調が現れる。それに続く部分は低く、先立つ部分は1音節ならば低く、2音節以上ならば、中。
 b)最初の/CVη/に該当する音節が高平。それに続く部分は低く、先立つ部分は中。但し、この音節が最後の音節である場合には、高平調の代わりに降り音調が現れる。
 c)長母音母音、二重母音、/η/を含まない単語では、最後から2番目の音韻的音節に該当する部分が高。それより前の音節は中。最後の音節は低、とある。

 本研究は今までにモンゴル語のアクセントに関して書かれたこれらの諸説を考慮し、本当に強さが第1音節にあるのかどうか、また、高さに関して服部博士の考えと一致するかどうか、更に、新たなアクセントの特徴があるのかどうか、及び色々な曲用形(Declension)、活用形(Conjugation)における音声特徴はどの様であるか等々を、二人のインフォーマント(後述)に184の単語を発音してもらい、それをピッチインディケーターにより分析して、考察しようとするものである。Герасимовч以来、アクセントに関する音響学的分析はほとんどないと言ってよく、アクセント自体すら軽視されてきたのである。多分その理由はモンゴル語のアクセントが音韻論的に無意味(注11)であることに見いだし得るであろう。即ち、'хана'[](壁)を[](注12)或いは[]、または、[]と言っても「壁」という本来の意味を失うことはない。しかしながら、これらをそれぞれの型が社会習慣として、ある種の感情を表現するのに用いられることは言語学上至極当然のことである。だが、この種の研究もほとんどなされておらず、アクセントの域を出る問題であるから、ここでは扱わないことにする。

 さて、この様な音韻論的に無意味なアクセントを究明して、如何なる価値があるのだろうか。 服部(注13)博士によれば、「---以上の考察において特に注意すべき新しい点は、無意味的単語音調の型が音韻論的解釈に利用され得ることを示した事である。これは音韻論的に無意味な音声的要素(社会習慣的型の)でも音韻論的考察から除外することが危険であることを暗示するものである」のであって、本研究が決して意味のないものとして、不当に扱われてはならないのである。更に、現実の音声を記述することは言語学の基礎たるものであることを考える時、モンゴル語の語について社会習慣として決まっている音声特徴を明らかにすることの意義と重要性を感じるのである。分析に用いたのは単語のみであるが、これは、実際の発話で音声の流れとなる時のアクセント形態の変化を調べる際の基礎的資料となるであろう。例えば、「あなたは行きますか」が、モンゴル語では、”Та очих уу?”となるけれども、プロミネンスにより、[]とも[]とも[]などとも実際の会話では現れる。この際’очих’という動詞は、語アクセントでは、[]であるのが、それぞれの場合に応じて変化するわけである。
 尚、本研究は、モンゴル語の語におけるアクセントに関して述べている。従って、 ここに言うアクセント(注14)とは、英語の強さアクセントや日本語の高さアクセントの様に音韻論的に有意味なアクセントではなく、語において社会的な習慣として決まっている、音韻論的に無意味な、相対的な高さ、或いは、強さの配置を意味する。かつ、インフォーマントが一人はハルハ方言に、もう一人はツァハル方言に属するので、当然の事ではあるが、そのアクセントは、ハルハ方言及びツァハル方言においてのアクセントである。前者は、東方グループ中央派、即ち、首都ウランバートルを中心に話されているモンゴル人民共和国の共通語であり、後者は、東方グループ南方派、即ち、内モンゴル自治区の代表的な方言(注15)である。尚また、客観的な音声特徴を得る為に、本研究では、ピッチインディケーターを使用した語にのみ触れ、自らの聴覚器官だけにより分析した語はいっさい研究の対象としていない。データの分析にあたっては、概ね”Preliminaries to Speech analysis” R.Jakobson M.I.T. Press 1951 及び「聴覚と音声」電子通信学会 1976年(8版)に従ったが、次の書物も参考にした。
 "Visible Speech" Ralph K. Potter, George A. Kopper and Harriet Green Kopp D.P.Inc.
 「日本音声の実験的研究」土居光知  岩波書店
 「実験音響学」     小幡重一  岩波書店


<注>
1.「モンゴル語文法」 ペテルブルグ  p.15  1832
2.「1903〜4年に於けるモンゴル文章語講義集」(第1号) ペテルブルグ p.23 1905
3.「蒙古文語ハルハ・クーロン方言比較音声学」 ペテルブルグ p.56 1908
4.「現代モンゴル語文法」 ウランバートル p.63 1967
5."Khalkha-Mongolishe Grammatik" Wiesbaden 1951
6."Khalkha Structure" Indiana University p.62 1963
7.「音声学」 服部四郎 岩波書店 p.191 1974 年
8."К вопросу о характэрэ ударэния в монгольском языкэ" Studia Mongolica Tom.VIII Fasc.14
9.「モンゴール語四週間」 大学書林 pp.33〜34  1972年
10.博士はモンゴル語を日本語と同様モーラ言語であるとしている。「言語学の方法」岩波書店 p.270註 1969年
11.モンゴル語の諸方言において、アクセントが音韻論的対立をなす様な例は、全然報告されていない。尚、「蒙古語」というとモンゴル人民共和国、ブリヤートモンゴル自治共和国、内モンゴル自治区、及び西モンゴル諸地域と南モンゴル諸地域において、母語として使用される言語全体か、或いは、1941年の文字改革以前の「蒙古文語」のことであり、「モンゴル語」とは、現在のモンゴル人民共和国で母語として使われる言語のことである。同じく「蒙古語」においても、その様な対立をなす例は見つかっていない。
12.[]における[]はその音節の高いことを示し、[ ]は後の音節が強いことを示す。
13.「蒙古語チャハル方言の音韻体系」 言語研究19号  1951年
14.つまり、 音韻論的に無意味であるために、高さか強さか、どちらが本質的なものであるか決定できないので、高さか強さかに関しては後に譲り、ここでは一応両者を示すこととした。
15.ここにおける方言の分類はN.N.Poppe "Grammar of Written Mongolian" Wiesbaden 1964 によった。


 2)実験方法について
2-1)使用語彙
 限られた時間で音声を実験分析するには自ずと単語数が限定される。そこで、ただ漫然と語彙を辞書から抜き出していたのでは何ら有効性がないばかりか、時間の無駄であるので、研究テーマに従って必要と思われる語を「新蒙日辞典」(大阪外国語大学)と"Монгол Хэлний Товч Тайлбар Толь"(Улаанбаатар)より、次の選定基準により選んだ。即ち、
 1)前述の服部博士の規則を考察しうるのに充分な組合せであること。
 2)第1音節にアクセントが無いと思われる語も含むこと。
 3)最高4音節までとすること。これ以上音節が増えると、組合せの数が多くなり、分析に適さなくなるため。
 4)できる限り基本語彙を選び、外来語と思われるものは除くこと。基本語彙に適当なものが無い時は、特殊な語を選ばないこと。
 5)子音による影響を少なくする為に、できる限り、母音で始まるか、破裂子音で始まる語であること。

         使用語彙分類

A
 A-1. Ф
 A-2. хана   бага   баг   хага   хаг
 A-3. хацар  гэзэг  хθлс  давах  намар
     багш   тγлш   архи  арав   ард
    улс    θвч    агт   амт
 A-4  хθмсθг        бθмбθг

B
 B-1-1.       би        цай
 B-1-2.       аав       айх
 B-1・2-2.     θθрθθ     таатай
 B-2-2.       тэмээ     одоо
 B-1-3.       буудал    тойлох
 B-1・2-3.     дээгγγр   жийтайх
 B-1・3-3.     тууштай   гγйлгээ
 B-2・3-3.     томоотой  даваатай
 B-2-3.       уруул     дутаах
 B-3-3.       θглθθ     тархай
 B-1・2・3-3.    ааваараа  байгаагγй


 C-1. хан     хаан    дайн
 C-1-2.    θнгθ  тэнхээ
 C-2-2.    далан долоон  тойлон    дγγгийн 
 C-1・2-2.   мθнгθн
 C-1-3.    монгол
 C-2-3.    байшинг
 C-3-3.    амьтан
 C-1・3-3.   монголын
 C-2・3-3.   байшингийн 
 C-1・2-3.,C-1・2・3-3.  略

D
 1. хацрын   хацарт   хацрыг
   хацраас  хацраар  хацартай

 2. агтын   агтад   агтыг
   агтаас  агтаар  агтатай

 3. бθмбθгийн  бθмбθгт   бθмбθгийг
   бθмбθгθθс  бθмбθгθθр бθмбθгтэй

 4. аавын   аавд   аавыг
   ааваас  ааваар аавтай

 5. буудлын  буудалд  буудлыг
   буудлаас буудлаар буудалтай

 6. тэмээгийн  тэмээд    тэмээг
   тэмээгээс  тэмээгээр тэмээтэй

 7. хааны   хаанд   хааныг
   хаанаас хаанаар хаантай

 8. ханы   ханд  ханыг
   ханаас ханаар хантай

 9.  тэнхээгийн   тэнхээд      тэнхээг
    тэнхээгээс   тэнхээгээр   тэнхээтэй

 10. монголын   монголд     монголыг
    монголоос  монголоор   монголтой

E
 1. давна      давав      давжээ
   давлаа     давагч     давдаг
   давсан     даваа      давж
   даван      даваад     давсаар
   давхаар    давхлаар   давмагц
   давтал     давхаа     давангуут
   давбал     дававч     давхуйц
   дав        давагтун   давруун
   даваач     даваат     даваарай
   даваасай   давтугай   давуузай
   даваг      давъя      давсугай

 2. тойлно     тойлов     тойлжээ
   тойллоо    тойлогч    тойлдог
   тойлсон    тойлоо     тойлж
   тойлон     тойлоод    тойлсоор
   тойлхоор   тойлхлоор  тойлмогц
   тойлтол    тойлхоо    тойлонгуут
   тойлбол    тойловч    тойлхуйц
   тойл       тойлогтун  тойлруун
   тойлооч    тойлоот    тойлоорой
   тойлоосой  тойлтугай  тойлуузай
   тойлог     тойлъя     тойлсугай

 以上、184語である。

 A.は、二重母音、長母音,/η/を含まない単語で、A-1は音韻論的音節(以下、全て音節とのみ記す)語であることを示すが、現代モンゴル語の自立語でA-1は見つからない。以下、A-2は、二重母音、長母音,/η/を含まない2音節語で、A-3は、3音節語、A-4は、4音節語を示す。
 B.は、二重母音、長母音を含むもので、B-1-1とは、第1音節に二重母音、または、長母音のある3音節語という意味である。従って、B-1・3-3は、第1音節と第3音節に二重母音、または長母音のある3音節語という意味である。
 C.は、音素/η/を含むもので、Bと同様に、C-1・2-2ならば、第1・第2音節に/η/を含む2音節語という訳である。尚、C-1・2-3及びC-1・2・3-3は時間の関係上略した。
 D.は、右へ順に、属格、与位格、対格、奪格、造格、共同格の語尾を接続した形で、10まである。
 E.は、'давах'(越える)という動詞の活用形で、初めの四つが終止形、次の四つが形動詞形、次の13個が副動詞形、残り12が命令形の計33づつある。それぞれの意味の違いについては、これを略す。

 (注)ここでの音節の概念は服部四朗「蒙古語チャハル方言の音韻体系」言語研究19号によっている。それによれば、初頭の母音は全て/’V/(補1)即ち、/CV/と解釈され、末尾子音は、漸弱漸強音であるのが普通であるので、音韻論的には、やはり、/CV/と解釈される。例えば、[]/jaba/(行け)、[]/xola/(黒い)、[]/’araba/(十)のように、前二つが2音節、後のが3音節となる訳である。服部博士は12の音節の種類を考えている。即ち、

  1. CV    2. CVV     3. CVη    4. CVVη
  5. CivV   6. Cai i    7. CVi     8. CViη
  9. Cei i  10. miaη    11. ’uaη   12. Xua a 

   がそれである。ただ、ここで問題となるのは、音節の下にモーラを認めることであろう。博士は子音の数だけのモーラがあり、長母音、二重母音はそれに先立つ子音と共に、2モーラに該当するとして、'би' [bi:](私)は、/bii/とし、2モーラ1音節であるとしている。従って、'улаан' [ola:η](赤い)は/’ulaaη/4モーラ2音節、'монгол' [](モンゴル)は/moηgala/4モーラ3音節となる。しかし、モンゴル語がモーラ言語であるか否かを論ずるには別な角度から研究が必要であり、今ここで述べることはできないので、ここでは、音節のみを考え、モーラに関しては触れない。また、音韻解釈上の問題に関しては、実験結果の考察の項に譲りたい。問題というのは、例えば、博士の音韻解釈によれば、'бага'(小さい)という語と'баг'(面)という語が共に同一音韻/baga/となってしまう。他に、'хага'(切る)と'хаг'(ふけ)、'суга'(脇の下)と'суг'(香)等がある。それに、'улс'(国)を/’olasa/、'багш'(先生)を/baga∫a/のように子音全部(/η/を除く)を/CV/と解釈することは、モンゴル人の音韻意識とかなりかけ離れてしまうことにもなる。
 尚、初めから服部博士の音韻解釈を用いて語彙を分類したのは限られた時間を有効に使い、合理的にことを運ぶためであって、勿論実験により、音声分析をし、音声特徴を把握した上で音韻を論ずべきことは承知している。それによっては、これら語彙に最初に施された解釈が改められることは当然あり得ることを付け加えておきたい。

(補1)/’/は声門破裂音に該当する子音音素で「声帯音音素」'glottid phoneme'と呼ぶ。尚、「アクセント素・音節構造・喉音音素」(音声研究9号)では、「有声喉音音素」とある。Cは子音(Consonant)、Vは母音(Vowel)を表す。


2-2)インフォーマントと録音について

 インフォーマントはヨンドンジャムツィーン・ツェベーンスレン氏(以下Y氏)と司博閣氏(以下T氏)のお二人である。Y氏はウラーンバートル市の隣のボルガンアイマクの出身で、ウラーンバータル大学、モスクワ留学を経て74年に来日、現在モンゴル人民共和国駐日大使館理事官を務める今年32歳の男性であり、T氏は中華人民共和国内蒙古自治区「明安旗」出身で、後45年に来日し色々な経歴を経て、現在東京外国語大学教授となる今年52歳の男性である。従って、Y氏は言語形成期をボルガンで、また、T氏は「明安旗」で過ごしたのであるから、ほぼそれぞれ、ハルハ方言、ツァハル方言のインフォーマントと言ってよい。Y氏は他にロシア語と英語が話せ、T氏は日本語と中国語の達人である。
 Y氏には渋谷区にあるモンゴル人民共和国大使館のロビーにおいて、また、T氏にはT氏宅と東京外国語大学実験音声学教室録音室の二つの場所で上記語彙を読んでもらった。両氏ともに丁寧な発音を依頼したが、Y氏の場合ほぼ1秒の間隔で各語を発音していたので(後の分析において判明した)、やや早口であったが、T氏においてはどちらの場所でもほぼ2秒の間隔を持って発音しており、標準的な速度であった。何度か練習してもらった後、落ち着いて1回づつ読んでもらったが、T氏の場合録音室で録音したときは、自宅の時と比較すると読み誤りも多く、多少あがった様子であった。そのため、これは参考資料にとどめ、本研究ではT氏宅で録音したものを録音状態もいいので、研究の対象とした。インフォーマントが二人しか得られなかったのは残念であったが、分析の都合上、制限せざるを得なかったこともある。しかし、人数を多く集めれば集めるほどよいとは、必ずしも言えない。大切なのは実験の質である。
 ここで注意すべきことは、この実験によってアクセント法則を帰納する訳ではなくて、一つの作業仮説(a working hypothesis)を立てるということである。そして、それが今後改められるなり、確認されるなりすればよいということである。
 録音装置は両氏共に共通であり、録音に際しては、ピーク・レベルがレッドゾーンに入らないようレベル調整し、その後は入力レベル調整は行っていない。
 使用器具は次の通り。

     Tape Recorder      Sony; TC-365 Recording speed 19cm/sec.
     Mic           Rion; Dynamic microphone MD-01
     Tape           Sony; Sony super A7-180




2-3)再生・分析・記録装置

 上述のように録音された音声を再生し、Pitch Indicatorによって分析し、それを記録するのであるが、記録方法は通常、Pen Writing RecorderとPhotocorderの二つある。不運にも外大の記録装置はどちらも故障であったので、東京学芸大学の再生・分析・記録装置を使わせていただいた。装置の詳細と接続図を下に記す。
再生; Tape Recorder Sony; 777A --- (図1)の中で番号 (1)で示す 以下同様 
分析; Pitch Indicator JEIC; PI-3A (Japan Electronic Instrument Co.,Ltd.) --- (2)
記録; Photocorder 横河電機製作所 --- (3)
記録紙;Oscillograph paper C-123 Direct Visual (Oriental Photo Ind. Co.,Ltd.) --- (4)

 再生レベル、その他スイッチ類は作動から停止まで常に一定であった。オシログラフペーパーは一次露光後、過剰露出にならないよう、直ちに複写して資料とした。

               (図1)

 先ず、再生された音声電流は増幅された後、一つはIntensity増幅部へ、もう一つはPitch抽出回路へ送られ、またもう一つはZero-crossing回路へ送られる。Pitch抽出回路は音声波を基本周波数(Pitch)の繰り返しを持つパルスに変換する。このパルスが放電管グリッドに到着した瞬間、放電が起こり、陽極は接地し、電位が零となって、次のパルスが到着するまでの間、陽極容量は再び充電を開始する。従って、次のパルスまでの時間が長ければ長いほど、つまり、Pitchが低ければ低いほど充電時間は長く、容量端子の電位が高くなるわけである。この電圧値を電磁オシログラフに記録させれば、Pitchの高いときは繰り返しが速くて小さく表れ、低いときには大きく表れることになる。Zero-crossing回路は音声波f(t)の振幅を、f(t)>0のとき常に一定値をAに、f(t)<0のとき-A或いは0となるようにさせる、即ちf(t)=0となる時点での間隔の時系列の大小を電流の大小に変化させるものである。簡単に言えば、母音のような一定のフォルマントを持つ波形は零ラインをクロスする回数が少なく、摩擦子音のように各周波数成分が均等であるような所謂white noise(白色雑音)の場合は、その回数が多くなるから、前者は電流の流れは小さく、後者では大きくなる訳である。これにより母音と子音の境界をを読みとることができる。
 以上のような経路でPitch Indicatorを経た電流は記録するための装置Photocorderに流れ、Intensity(& time)、Pitch、Zero-crossingそれぞれの波形が記録紙に現れることになる。
 Pitch IndicatorはこのようにIntensity(& time)、Pitch、Zero-crossingの時間的変化を同時に観察測定できるので、アクセントの研究のみならず、方言の研究、或いは、古代音楽、平曲の採譜保存等にも利用できる。


2-4)「強さ」と「高さ」

 句または語を形成する音節の相対的強さを聞き分けることは、不確実ながら耳によって普通に行われている。しかし、研究の方法としてはこれだけでは的確を期しがたく、その為、しばしば特に強さアクセントに関して種々の異論を生じやすい。そこで、強さの客観的準度を確定することは物理学や心理学にとって必要なだけでなく、言語の研究にも重要である。物理学的「強さ」(補2) は、単位時間に単位面積を通過する音波のエネルギー(補3)であり、音波伝播媒体が一定し、発音体の振動数が一定しているときは振幅の2乗に比例する。また、振幅が一定の時、振動数の2乗にも比例する。即ち、強さをI、振幅をa、振動数をn、とすれば、I=が成立する。ただし、この「強さ」が今2倍になったとしても、人間の耳には2倍強く聞こえる訳ではない。音に限らず、一般に感覚器官は与えられている刺激の物理的強度が変化しても、変化による強度差が一定の値を超えなければ、変化を知覚できないからである。感覚レベル60dB以上の時、感覚量は物理量の対数に比例する(Weber-Fechnerの法則)。ところで、音声学に於いて重要なのは聴覚的強さである。聴覚的強さの物理的強度に対する関係は非常に複雑であり、高さ、振幅及び音色にも関係する。ところが、言語の研究者が先ず第1に知りたいのは音節の相対的強さである。音節の強さは確かにその母音の強さによるが、子音の強さも、そこに全く無視することはできない。ただ、子音の強さについては今後の研究に待つところが大きく、今これに正当な地位を与えることができないのである。一般に音の聴覚的強さについて、その程度を定めることは困難であるので、本研究のアクセントを考える際の「強さ」はIntensityという物理的強度であり、あくまで聴覚的な「強さ」とは違うことに注意していただきたい。しかも、絶対的な「強さ」として捕まえるのではなく、ある語において、ある音節が、Intensityにおいて他の音節よりも強いという相対的な「強さ」として捕らえるのである。かくして、音節の「強さ」の比較が可能となる。
 また、「高さ」とは基本周波数(補4)Pitchのことである。一般の音声では基本周波数は一定でなく時間と共に常に変動し、各高調波成分の周波数も基本周波数の変化と同じ速さで変化するので、基本周波数を捕らえることによって、語における高さの比較が可能となる訳だが、発声条件により基本周波数は変動するから、これも絶対的な「高さ」を捕らえたのでは比較にならない。よって、ある語において、ある音節が、Pitchにおいて、他の音節よりも「高い」という相対的な「高さ」として捕らえなければ意味がない。かくして、「高さ」の比較が可能となる。尚、聴覚的には、普通一つの音節、母音の全体について大体の高さを知るのみで、長母音を持つ音節では、その上昇または下降の方向を知覚するぐらいのところである。

(補2)「物理的強さ(物理量)」を「強さ」(Intensity)、「主観的強さ(感覚量)」を「大きさ」(Loudness)と呼ぶ。以下これに従う。
(補3)運動エネルギーの法則 にあてはまる。
(補4)声帯の振動を音源として生ずる有声音等の持続部での、ほぼ相似的な波の繰りかえしの周波数のことをいう。


2-5)Sound Spectrograph
 オシログラフペーパーに現れる波形を読む際、どの音が一体どこに現れているかを判断するには、多少の熟練が必要である。しかし、熟練したとしても、判断の困難な場合も生じることがしばしばある。この様な時、Sound Spectrogramを参照し、確実なものとする訳である。(図2)を見ていただきたい。今'багш'[]という発音を下側のIntensity曲線(上はPitch曲線・矢印が時間の方向)で辿って見ると、大体の対応を見いだすことが可能ではあるけれども、多少モンゴル語の知識のある者であれば誰でも[∫]の後の高い山が一体何であるか、疑問を持つところである。その理由は'багш'は[]であり、後の山がこんなに高くなる筈がないと感じるからである。

        (図2)


←Pitch






←Zero-cross



←Intensity






←Time

 そこで(図3)のSpectrogram(Wide Pattern)で見ると、明らかに母音が出ていることが判る。この母音は[][]ではなく、フォルマントからすると[i]と考えられるのである。

          (図3)

 この様にSound Spectrogramにより、母音のフォルマント構造、フォルマントのわたり(Transition)の性質、母音及び子音の特徴などを読みとることができる。Sound Spectrograph自体の詳しい説明は事ふりにたりの感があるので、ここに使用した機械のみを記して、省略させていただく。合計113枚のSpectrogramをとった。

再生; Tape Recorder TEAC AR-740 (19cm/sec.)
用紙; KAY Elemetrics Co. Type B/65
分析; Sound Spectrograph KAY Elemetrics Co. Sona-Graph 7029A
    Recording Level --- within 0dB
    Reproduce Level --- within -3dB
    AGC --- 10 Mark Level --- 7.5
    Wide --- 300Hz Narrow --- 45Hz
    Range --- 80 〜 8,000Hz
    Recording Time --- 2.4 sec.
    Analysis Time --- 1.3 min.
    Response --- ±2dB over entire range
    Heterodyne 方式


3)実験結果の考察に関して

3-1)実験報告





3-2)実験結果への考察

3-2-1. 2音節語に関して

 A)二重母音・長母音・/η/を含まない単語(A-2)

 これらの単語では第1音節が高く、かつ強いことが明らかである。が、Y氏の'хана'の発音においては[]と2音節目が強くなっている。しかし、高さは、やはり1音節目にあり、「高低」という型は保たれていて、決して[]ではない。本研究で「低高」型は全く現れなかったので、多分、高さが1音節目にあれば、強さは1音節目に来ることが多いが、2音節目に来てもいいと言うことができるであろう。前述したように研究の対象とした語彙は限定されているので、尚多くの実例によって確認する必要がある点は付け加えておきたい。

 B)二重母音・長母音・/η/を含む単語

  ア)/CVVCV/(B-1-2)と/CVηCV/(C-1-2)及び/CVηCVV/(C-1-2)

 最初の長母音、/η/を含む音節がそれぞれ高くかつ強い。精確には長母音の内、前の母音に高さがあり、後の母音に強さが来る傾向がY氏には見られ、その反対がT氏に見られる(C-1・B-1-1も参照)。どちらにしても第1音節が高くかつ強いのに変わりはない。また、/η/に上り音調が見られるが、Y氏のтэнхээ[]では、'-хээ'に高いところからの下り音調が現れていて、「低高」型で強さの配置と一致しない。/η/を含む音節と長母音の音節は高く発音されるので、両方が繋がった時どの様になるかが、ここでの狙いであったが、T氏では/η/の方が、Y氏では長母音の方が高めであった。

 イ)/CVCVV/(B-2-2)と/CVCVη/・/CVCVVη/・/CVVCVVη/(C-2-2)

  Y氏の'дυυгийн'[]を除けば、全て長母音、/η/のある音節が高くかつ強かった。(/CVVCVVη/では前の方)'дυυгийн'は属格語尾が付いたもので、語彙の分析に含めたのは適切ではなかったが、<表2>のаавの属格の欄を見ると、やはり強くなっているので、後が強くなっても不思議はない。高さに関してはаавынが上昇調で発音されているので、高くなっているに過ぎない。


  ウ)/CVVCVV/(B-1・2-2)と/CVηCVη/(C-1・2-2)

 考え得る音節の可能性に適合する自立語を発見することが困難であったので、Bの単語には活用形を用いたのが多く、そのまま単語のアクセントを考えられなくなったのは残念であったが、何らかの参考にはなるであろう。θθрθθ[]では、高さが前、強さが後ろと両氏ともなっている。このことはこれまで強さが前にあると考えられていた実体が、実は強さではなくて、高さであったことを思わせる。つまり、高さのあるところを強いと勘違いしていたようである。従って、/CVVCVV/は「高低」型であり、強さは「弱強」となるから第1音節が強いとは言えない。ただし、緊張して発音した時は(録音室で録音した時のデータ)、「強弱」も見られることから、強さはどちらでも来られることになる。換言すれば、第1音節が必ずしも強いとは言えないのである。таатай[] 〜 []は共同格語尾が接続した形で、後述するように共同格は、普通低くかつ弱く接するので(<表1> <表2>参照)、当然前が高く強い。/CVηCVη/は前の/CVη/が高く強かった。


<表1>  T氏の場合

*語幹の内の最高の高さ、強さに比較して、語尾が「強い」か「同じ」か「弱い」か、或いは「高い」か「同じ」か「低い」かを示す。
 高さの欄のアルファベットは音調の型を表すもので14種類ある。<表1><表2>とも同様の表記。


<表2>  Y氏の場合

*10.монголはテープ破損により、分析不能となったので、Y氏の場合、9.тэнхээまでである。


  <音調の種類>


3-2-2. 3音節語に関して

 A)二重母音、長母音、/η/を含まない単語(A-3)

 一見すると何ら明確なアクセント特徴を見いだすことができそうにないが、服部博士は、「単独の発音において、第1音節が強く、他はそれより弱く、高さは第2音節が高で、第1音節は中と高との間を動き、第3音節は低い。--- [](先生)では、無声化されている為に高さの山が2音節目に来ることが出来ず、これが次の音節に移った為である、と解釈することができる。」としている。しかしながら、音声学的見地から、無声化によって高さの山が後の音節に移らなければならないという必然性はなく、当然、前の音節に移行してもよいはずである。博士のインフォーマントはT氏と同じツァハル方言を使う人であった為に、その様に高さが後の音節に移ることになったのであり、もし、ハルハ方言を使うインフォーマントであれば、当然そうはならなかったであろう。即ち、Y氏において、3音節目が高い語は絶無であり、逆に第1音節が高くなっていることが判る。小沢教授は、「ハルハでは第1音節が強いと思う」と述べている。この「強い」というのは多分、強さアクセントとして考えている為であり、これまで見てきたように強さと高さの山が一致する例は多く見いだせることから、当然高さも第1音節にあると思われるので、Y氏の個人的特徴で第1音節が高いとすべきではなく、方言の違いにそれを求めるべきであると思う。従って、次のようなアクセント変化の過程が考えられるのである。

                   (図4)


 (1)の段階では、第2音節目の母音が無声化しておらず、高さが2音節目にある。しかし、強さは第1音節・第2音節どちらにあってもよいが、数字の示す通り、//は全3音節語中に両氏とも7%しかなく、強さも2音節目に来ることの方が多いことを示している。もし、従来通り第1音節が強いとするなら、その様な語は何とY氏では21%、T氏でも21%しかないのである。(両氏における21%という数字の一致自体は偶然と考えられる)ところが、
 (2)の段階になると、第3音節の子音が無声子音であるか、或いは、有声子音でも語末の母音が弱化して無声化するかによって、逆行同化を受けた第2音節の母音及び子音が無声化して高さがここに残ることができずに、第1音節に高さが移行した。第3音節が無声化しない場合はツァハル方言では第3音節に高さが移行した。しかし、無声化がまだ完全でない為に強さはまだ2音節目にある。

 (3)の段階では、完全に無声化が達成され、高さ・強さ共に第1音節或いは第3音節に移行した型である。(第4図中の%は全3音節語中における、その型の占める割合を示す。)

 ア)ハルハ方言
 第2音節が無声化していないならば、3音節語のアクセントの型は「低高低」だと言えよう。[]と発音されても第2音節が高いことに変わりなく、反対に[ge-]という第1音節さえ強ければ高さはどこに来ても不自然ではないとすることはできない。何故ならば、その様な発音は第2音節が無声化していない語では一つも見いだせないからである。どんなに第1音節を強く発音しても第2音節は高く発音されるはずである。また、第2・第3音節が無声化しているならば、上述の理由で、第1音節が高となる。が、強さは第2音節に保存されている。この二つの型が全体の86%を占める。そして、残る14%とは第1音節に高さ・強さ共にくる型で、将来予想されるアクセントの型と思われ、多分3音節語はみな早晩このアクセント型に近づくように思う。従って、本研究では高さの移行が完了してしまったものは2音節語とみる。例えば、[]は/bagi/、[]は/'arda/、([]は/’ulasa/、[]は/dabaxa/のままである)、[]は/xls /、[]は/’obi/というふうに/CVCCV/の2音節語になる。

 イ)ツァハル方言

 上記ア)と同様に第2音節が無声化していなければ、3音節語のアクセントは「低高低」である。この型だけで全体の72%を占める。ところが、無声化した際は、「高低低」と「低低高」の2型があり、高さのみ移行の例は現れなかった。服部博士は[]の他[](早く)という例を示しており、第3音節が高くなるのは、個人的特徴ではなくて、ツァハル方言に於けるアクセント特徴を示すと言ってよい。また、予備実験の際、[](汗)という発音や[]という発音があり、高さのみ移行した例も見いだし得た。ただ、問題は「高低低」という型が14%あることである。追加実験したが、明白な結果は得られなかった。(追加実験例:товч、авч、эмч、малч、навч、ард、орд:その結果товч、авч、эмч、малч は最後の音節が高くかつ強かった。навч、ордは最後の音節が高く最初の音節が強かった。ардのみ最初の音節が高くかつ強かった。) Y氏は既に日本へ来て30年近くになるという特殊性があるが、多分語によっては前へアクセントが移ったものもあるのかも知れない。この問題と、何故ハルハでは前へ、ツァハルでは後ろへアクセントが移ったかは今後の課題である。


 B)二重母音、長母音を含む単語(/η/は含まない)

  ア)/CVVCVCV/・/CVCVVCV/・/CVCVCVV/(B-1-3, B-2-3, B-3-3)
    二重母音、長母音のある音節が高くかつ強いのは明白で、問題ない。

  イ)/CVVCVCVV/・/CVCVVCVV/・/CVVCVVCV/(B-1・3-3,B-2・3-3,B-1・2-3)
   間違いなく前の二重母音、長母音の音節が高くかつ強いのが判る。

  ウ)/CVVCVVCVV/(B-1・2・3-3)
 この様な音節構造を有する自立語を見いだすことが困難であったので、付属語を付けて用いた。高さと強さは一致していないが、最初の/CVV-/にどの語も高さがあることが判る。しかし、強さは2音節目に来る方が多い。これは、ハルハでは「高高低」という型になり、ピッチの下降を補う為に2音節目が強くなったと思う。T氏では、「高低低」・「強弱弱」とも「高高低」・「弱強弱」ともこれからだけでは何とも言えない。多分、接尾辞との関係によるものと思う。


 C)/η/を含む単語

 /CVηCVCV/(C-1-3)・/CVCVCVη/(C-3-3)・/CVηCVCVVη/(C-1・3-3)/CViCVηCVVη/(C-2・3-3)/CVVCVηCV/(C-2-3)
  T氏[]では3音節の型通り第2音節が高いが、Y氏では高さが後ろの/-CVη/に移り、強さは第2音節にあるのは、/η/を含む音節がやはり高く(高いところからの下り音調だが)発音されるからであろう。しかし、第2音節も上り調子をとっていて、「低高高」と考えられる。Y氏[]、[]はそれぞれ属格語尾が付いていたもので、<表2>に見られるように属格語尾は上り音調で強く付くから、この様になったと思われるが、それぞれ/η/に向かって上り音調が見られる点、変わりない。一方、T氏の場合<表1>に見られるように属格は普通低く弱く付くので、最初の音節のみ高く、かつ強く[]、[]、[]となる。これまでの/CVV/と/CVη/との組合せをまとめてみると、次のようになる。尚、/CV/と/CVV/、或いは、/CV/と/CVη/との組合せでは、最初の/CVV/、或いは/CVη/が高く強いことはこれまでの例で明らかである。


 T氏では第1音節に/CVV/か/CVη/のどちらかが来れば、その来た方が高く強い。Y氏では高さと強さが一致しない例が三つある。これは/CVV(i)CVηCV/と/CVηCVV/では、後ろの方を高いところからの下り調子で発音する傾向があることを示している。最後のは属格語尾を含み、高さが-гийнに移ったので、-ши-のところに強さが来たと見ることができよう。従って、やはり/CVV(i)/と/CVη/からなる音節では第1音節が強く、最後に高いところからの下り音調がくることがあると言い得るが、この音調がY氏の個人的特徴であるかどうかは確認することができなかった。最初の/CVη/は上り音調をとり/η/で最も高く、後下降するが、強さは強平である。最後の音節では上昇調の変わりに下降調となる。

3-2-3. 4音節語に関して(A-4のみ)

 両氏とも高さ強さは第2音節にあるが、2語だけでは到底結論を出すわけにはいかない。更に他の4音節語を調べる必要がある。ただ、多分第2音節が高く或いは強く発音されていると思われる語は多く発見されるであろうことは付言しておきたい。服部博士の指摘通り最後からから2番目の音節に高さが現れる。が、第2音節の高さを超えることはなかった。

3-2-4. 実詞普通変化格語尾に関して

 ここでの狙いはそれぞれの語尾がどの様な高さ、強さで接尾し変化するかを調べることにある。

 A)T氏に於ける語尾変化<表3>

 与位格を除いてどの格も長母音、或いは、二重母音からなっているので(但し、тэмээгのように前が長母音の語の対格は除くが)、長母音、二重母音、/η/を含まない語では語尾の方が高いか強くなる筈である。ところが、共同格のように二重母音を持ちながら、3音節語を除いて、弱く接尾している格があれば、これはこの格の持つ一定の性質と見なすことができよう。与位格のG音調は、図に示す通りの上昇音調であるが、これは単語を次々に発音していく際に、しばしば現れる上昇調子であり、接尾されている語によってそうなったのではないから、与位格は普通、低く弱く下り音調(B型)を持って接尾すると言えよう。残る4格はどの語に対しても共通に接尾するというような共通特徴を見いだすのは困難であり、それぞれの語の音節構造に関連させて考えなければならない。

 甲型:No.1.2.3.8; これは長母音が格語尾だけにあるもの
 乙型:No.4.5.6.7; 長母音がすでに格語尾の前にあるもの
 丙型:No.9.10;  格語尾の前に/η/を含む音節があるもの

 今仮に長母音、二重母音、/η/を含む音節は高く或いは強く発音され、それらが二つ以上ある時は、1番目のそれぞれが高く或いは強く発音されるという既出の事実を規則化して適用してみよう。この規則が格語尾の接続において適用できなければできないほど、格語尾の持つ影響力が大となると見なすことが可能となる。適用できる期待値を<表5>をもって示す。格語尾の接尾する語と格語尾とが同じ高さか強さを持つ時は、やはり接続した形全体から見れば、1番高い、或いは強いところが二つあるということになるので、表では「高い」或いは「強い」にそれぞれ含めてある。


                <表5>
         *規則に適する語数 (規則に反する語数)


 横を見ていけば、それぞれの格語尾にどれだけこの規則の適用が期待できるかが解り、縦を見れば、それぞれの型に於けるその期待される値が解るようになっている。この表を見る際注意していただきたいのは、「強さ」とある欄は「強さ」から見て規則に適するかそうでないかを示すのであって、イコール「強い」訳ではない。例えば、「乙型・属格・強さ」の所を見ると「4(0)」とある。これは規則に適する語が強さから見ると四つあり、適さないものは無かったということを意味し、乙型は、二重母音を含む語で属格の二重母音が繋がっても、前の二重母音の方が強くなる筈なので(規則)、語尾は弱くなる訳で、まさにそうなる語が四つあったという訳である。従って、この場合の属格は弱く接尾することになる。以下、同様にこの表を見ていただきたい。
 「高さ」の方がが「強さ」に比較すると、期待される値が少なくなっているのは、連続して発音される時しばしば現れるD+IとかA'+I等による上昇調子の影響と考えられるが、強さの方がここでは安定した現れ方を示している。この表から解るように、属格、対格の期待値が高く、奪格、造格の期待値が低くなっている。この期待値の低下は乙・丙型に帰するところが大きく、甲型にあってはその期待値は高いのである。従って、長母音、二重母音、/η/を含まない語(=甲)には、どの四つの格語尾も強く或いは高く、或いは、同程度の強さか高さを持って接尾すると言える。また、長母音を持つ語(=乙)と、/η/を持つ語(=丙)には、属格・対格は弱く或いは低く接尾し、奪格・造格にあっては、強く或いは高く、或いは同程度に接尾すると言えよう。この様に、<表1>からだけでは何ら規則性が見いだせないのが、<表5>によって、大体の規則性を見いだすことができた。が、無論、文中にあっては、様々に変化しより複雑な結果となる。その際の何らかの参考になればと思う。

 B)Y氏に於ける語尾変化 <表2>

 T氏と異なり、'тэнхээ'という語を除いて、どの語にも大体一定の接続傾向が見られる。これは、T氏がそれぞれの語を下り調子で読み、時々上り調子をとったのに対し、Y氏はほとんど長母音を上り調子で読んだ為にこのようになった。しかし、与位格はどの語に対しても低くかつ弱くB音調を持って、また、3音節語を除く共同格が弱く(高さは不安定である)接尾している点は、T氏と変わりない。新たに表を作成するまでもなく<表2>によって、属格・対格・奪格・造格の四つの格語尾は、高く或いは強く接尾しているのが判る。'бθмбθг'や'буудал'に於いて、何故強さが低下しているのか、ここでは明白な理由は解らず、また、ほとんどの語を上り調子で読んでいるので、T氏に於いて示した様な推察をしてもあまり意味がないと思われるが、一応属格・対格(前が長母音の時を除く)・奪格・造格はどの語にも強く或いは高く接尾するとしておく。尚、'тэнхээ'は単独の発音では、тэн-が最も強く、-хээが最も高いのは、前述の通りだが、/CVηCVV/・/CVVCV(η)/という構造を有す他の語との接続形を調べなければ、接尾の特殊性に関して何とも言えそうにない。

 C)両氏に於ける格語尾に関する相違

 音調を比べると異なった型が使われていることが解るが、これは厳密な音調分析であって、聴覚的な違いはあまりないと思われる。T氏の場合は、下り調子の発音の変種、Y氏の場合は、上り調子の発音の変種がそれぞれ現れているに過ぎず、Y氏のHH'D型はT氏の'бθмбθг'の属格に現れたC型の変種である。従って、Y氏が属格・対格・奪格・造格を強く発音していることを除いて、両氏に於ける重大な格語尾に関する発音上の相違はないと思われる。

3-2-5. 活用(conjugation)語尾に関して<表3>・<表4>

 'давах'(第2音節が強く高い)と'тойлох'(第1音節が強く高い)のアクセント位置が異なる2種の3音節語を選んで、活用語尾がどのように接尾するかを調べるのがここでの狙いである。先ず、'давах'に強く接尾するのが、長母音を含むものが多いのに気が付く。音調は大ざっぱに2種に分け、その示す内容は<表>に書いた通りである。ところが、'тойлох'を見ると今まで高くかつ強く接尾していた語が一挙に減り、必ずしも長母音、二重母音を含む語尾全部が、高いか強いということにはならない。命令形の語尾の多くが高く或いは強く発音されているのは、両氏に共通していて興味深い。また、T氏は強さによって、Y氏は高さによって、それぞれの語尾を際立てている様子が判るのは驚きである。これは方言の違いか、個人的な違いか今回の実験だけでは明白にできない。<表3>・<表4>は参考資料としてとどめておく。

<表3>  T氏の場合
 
*語幹の内の最高の強さに比較して、語尾が「強い」か「同じ」か「弱い」かを示す。
**H1は語幹の最高点より高いところから音調が降下することを示す。H2は一度上昇してから下降するが、語幹の最高点よりも高い。H0は語幹と語尾の高さが同じであったことを示す。
  L1は語幹の最高点より低いところから落ちる。L2は一度上昇しても、語幹の最高点を越えることはないことを示す。<表4>も同様。

<表4>  Y氏の場合
 
4)結論
4-1)他の論文との比較において

 モンゴル語のアクセントが強さアクセントで常に第1音節にある、とする説は科学的見地から正しくなく、修正する必要無しとしない。この説の例外を苦無く見いだすことができるのは、今までの考察からわかるところである。即ち、長母音、二重母音、/η/を含む音節は高く強くなるので、それらを含まない場合に限った3・4音節語でも第1音節に強さがあるのは19%に過ぎなかった。前に引用した服部博士の考察に関して、本研究はそれを次のように改めた方がよいと思われる結果を得た。

 a)最初の長母音または二重母音に降り音調が現れる。即ち、それらが高い。但し、それらが三つ連続するとこの限りでない。前二つが高い。高さに於ける中や低は、発音条件により異なり、モンゴル語に於いては何を持って中の高さとし、何を持って低とするか明白でなく、低高或いは弱強といった際立ちを知るのみであり、中・低の差を認める必要はないと思われる。語内部での相対的な比較に於いても、中・低の規則正しい相関は認められなかった。

 b)最初の/CVη/は高平ではなく、上り音調をとり、/η/で最も高く、のち下降するが、強さは強平と言って正しい。続く部分も先立つ部分も/CV/ならば低で、最後の音節では上昇調の代わりに下降調となる。

 c)最後から2番目の音節に該当する部分が長母音、二重母音、/η/を含んでいない音節ならば、そこに上昇下降調或いは下降調の音調が現れる。高さの程度は時に異なり、中と定義するのは困難である。

 他に、前述のГерасимовчはモンゴル語のアクセント特徴が長さによって定められていると結論していながら、論文中において、「しかしながら、このモンゴル語の最初の母音が圧倒的多数の場合に於いて、後の母音に比べ長いという規則性は、短母音だけからなる単語や、第1音節に長母音・二重母音を持つ単語に限られていて、様々な質の母音からなる3音節以上の単語では、長母音・二重母音が第1音節に無い場合には、その位置に応じて個々ばらばらである」と述べている。元々モンゴル語に於いて、長母音と短母音には音韻論的な違いがあるのであって、第1音節に長母音を含む語まで第1音節が長いとする証拠に入れて論拠の中心となすのでは問題にならない。T氏のアクセントのある[a]に於ける平均的長さは約0.2secで、[a:]では約0.4secぐらいである。無論絶対的な長さであるから、何ら有効な値ではないが、仮にこのペースで発音をおこなったとしたら、約0.3secを越せば長母音に近づくことになるのであって、もしアクセントの特徴を氏のように長さとするなら、この0.3secから0.2secの差、即ち、0.1sec前後の間にその特徴を求めなくてはならなくなり、本研究のごとく丁寧な発音をもってしても大体この程度の時間であるから、実際の発話にあっては、到底認知される程の差になり得ないであろう。ただ、アクセントのある母音は、そうでない母音よりも長母音と認知されない範囲に於いて、長くなることは予想されるが、本研究では確認されなかった。
 Герасимовчは分析資料に詩の朗読を用いているので、詩作法上の特殊性を除外するのが困難であった形跡がある。
 
 本研究に於けるT氏の母音特性をスペクトル分析により明らかにしておきたい。尚。母音の弱化は第1音節より後の音節に見られる傾向があった。詳しくは実験結果参照のこと。
F1F2
монгол最初の'о'[]300〜600 Hz700〜1,000 Hz
後の'о[]'200〜400700〜1,000 
намар最初の'a'[a]600〜900 1,000〜1,400
後の'a'[] 300〜600 900〜1,400
бага最初の'a'[]400〜800900〜1,100
тэнхээ最初の'э'[]400〜6001,000〜1,300
'ээ'[]200〜500800〜1,300
хθлс'θ'[]200〜500800〜1,100
дутаах 'у'[o]〜500 600〜1,000
тγлш 'γ'[] 200〜400 700〜1,000
бий 'и'[i]〜300 1,900〜2,100

4-2)アクセントに関する仮説
a)2音節語
 2音節語 では、第1音節が/CV/でかつ第2音節に長母音、二重母音、/η/の内のいずれか一つを含む語を除いて、全て第1音節が高い。強さは、第1音節に来るときの方が多いが、後ろに来ることもある。除外した語は第2音節が高い語で、やはり強さは高さに付随し、第2音節が強いのがほとんどであるが、第1音節に来ることもある。図示すれば次のようになる。

b)3音節語
 3音節語で、全音節が/CV/(音節主音的音素を含む)からなる時、第2音節が無声化していないなら、第2音節が高く、完全に無声化している時は、ハルハでは第1音節が高くなり、ツァハルでは第3或いは第1音節が高くなる。その際、ハルハでは強さが第2音節にあることが多いことを除けば、他は大体強さは高さに付随する場合が多いと言える。長母音、二重母音、/η/を含む3音節語では、それらの内一つだけが3音節語の中にある時、その音節が最も高くかつ強い。二つある時は、前のそれが最も強い。高さは一定していない。3音節全部がこれらによって占められると、第1音節・第2音節が高くなり、強さは第1音節か第2音節のいずれかに来る。

c)4音節語
 4音節語で、長母音、二重母音、/η/を含まない語では、第2音節が最も高く強い。但し、最後から2番目の音節に上昇下降調或いは下降調の高さが現れる。

d)上記以外の語にも適用できると思われる二つの規則

 規則1)
  長母音、二重母音、/η/を含む音節は高さまたは強さのアクセントを形成する。
  但し、複数これらが繋がり、格語尾、活用語尾等を含まなければ、最初のそれぞれがアクセントを形成する。

 規則2)
  最後から2番目の音節に該当する部分が長母音、二重母音、/η/を含まない音節ならば
  (含んでいれば、そこは高く強い)、そこに上昇下降調或いは下降調の高さが現れる。


e)実詞普通変化格語尾の接尾の仕方
 与位格・共同格・前が長母音か二重母音の時の対格は3音節語を除くどの語にも弱く接尾する(この場合高さは一定でない)。長母音・二重母音・/η/を含まない語で、属格・対格(前が長母音・二重母音の時を除く)・奪格・造格は強く或いは高く接尾し、それらを含む語で、属格・対格が弱いか低く、奪格・造格が同じか強く或いは高く接尾する。

 以上が、現代モンゴル語に於けるアクセントに関する本研究の見解であるが、これを持ってして充分であるとは言い難く、尚多くの問題を残している。即ち、4音節語に於けるアクセントの型の確認、5音節以上の語に一定のアクセント型があるかどうか、音節の取り扱い、音韻体系との関係などがある。何分、時間的・経済的制約を受け、二人のインフォーマントから得た結果に過ぎなかったが、従来のアクセント説が正しくない(3・4音節語で第1音節が最も強かったのは19%に過ぎない)とする根拠は得られ、また、諸説に対する一応の解答も得ることができたのは幸いであった。今後、これらのアクセントに関する考えが正しいかどうか確認される日が来ることを期待してやまない。


5)最後に
 モンゴル語のアクセントは、2・3音節語では高さから見た方が相関を成す場合が多いが、長母音・二重母音・/η/を含んだ時や、実詞格語尾の様に強さから見た方が相関関係は明白になるといった事実を見る時、アクセントを強さアクセントとのみ考えるのは同様の理由を持って高さアクセントと考えることを可能にする。モンゴル民族はこの音韻論的に無意味なアクセントを親から子へ、子から孫へと伝えてきたのであって、その際、ピッチインディケーターなどを使わなくても、正しく強さ高さを聞き取り伝え、今日までそれを社会習慣的型として保ってきたのである。アクセントが音韻論的に無意味で、同音節数の語は同様なアクセント型を有するので、一型アクセント体系を有する言語、或いは、一系列アクセント素を有する言語と言うことができようが、だからといって、強さのみ、高さのみをこの言語に於ける発音上の特徴とは言えず、今日まで伝えてきた伝統的社会習慣としてのアクセントの内容を精確に伝えることはできない。しかし、高さを強さと意識してしまう場合が多く、これまでの研究家も高さと強さを聴覚的に混同しており、インフォーマントでさえも、高さのある所を強いと感じている事実を見る時、既にモンゴル語のアクセントは高低アクセントから強弱アクセント化してしまった様な感が強い。金田一春彦博士は、「日本語のアクセントは、やがてこの様に平板型のアクセントを失って、はっきりした統一的アクセントになり、強弱アクセントに変身していくかの予想を懐かせる」と述べており、日本語の様な音韻論的に有意味な高低アクセントでさえも、強弱アクセント化する傾向を指摘している。モンゴル語にあっては尚更のことで、3音節語に於ける考察で見た様に、3音節語の第2・第3音節無声化の為、現在は第1音節に高さが移り、強さが第2音節にあるのが、しだいに第1音節のみに強さを認められることになれば、音韻化が進んでもはや完全な統一アクセントになり、強弱アクセントとなるであろう。ギリシア語は3B.C.以後それまで高低アクセントの言語だったのが次第に現代の欧米諸言語の様な強弱アクセントに移っていき、以前2単位と意識されていたai・anとかいう音の連続は、一つの単位と意識されるようになっていったそうである。モンゴル語が以前高低アクセントの言語であったかどうかは、後の研究に譲るが、アジア特に極東には高低アクセントの言語が多く、日本語の他、中国語・アンナン語・タイ語・ビルマ語・チベット語・アイヌ語・タガログ語もそうであることを考えると、蒙古語もそうであったとの感を懐かざるを得ないことを最後に述べておきたい。
 執筆にあたり、多くの諸先生からお教えをいただき、また、多忙にも拘わらず録音させていただいた両氏、そして、重い録音機材を車で運んでくれ協力してくれた学友諸君に対して、心から御礼申し上げるしだいです。

 参考文献

音声学入音 シュービゲル  大修館
音声学  B・マルンベリ  白水社
音声学  服部四郎    岩波書店
日本音声学  佐久間鼎  京文社
音韻論I   小泉・牧野   大修館
日本語音韻の研究  金田一春彦  東京堂
一般言語学    Roman Jakobson みすず書房
言語  L. Bloomfield  大修館
記述言語学  H.A. Gleason  大修館
国語学概説  佐伯梅友  秀英出版
 以上の他、1)序論で掲載した書物

<注>
1)「モンゴル語文法」 ペテルブルグ  p.15  1832
2)「1903〜4年に於けるモンゴル文章語講義集」(第1号) ペテルブルグ p.23 1905
3)「蒙古文語ハルハ・クーロン方言比較音声学」ペテルブルグ p.56  1908
4)「現代モンゴル語文法」ウランバートル p.63  1967
5)"Khalkha-Mongolishe Grammatik" Wiesbaden 1951
6)"Khalkha Structure" Indiana Univ. p.62 1963
7)「音声学」  服部四郎  岩波書店   p.191  1974
8)"К вопросу о характэрэ ударэния в монгольском языкэ"  Studia Mongolica Tom. VIII Fasc.14



6)実験資料(分析データ)


 上記例a, b, c, d, e, fのように、出力を六つずつコピーして単語インデックスを付けて資料化したものが実際の論文には綴じ込まれている。資料だけで62ページにもなり、ここでは省略する。資料を今ここで付さなくても問題はないと考える。科学に於いて最も重要なのは再現性だからである。つまり、他の学者達が同じような実験を同じ環境で行った場合、同じ結果が得られなければ、初めのものはもはや真理ではない。一つ一つのデータの善し悪しを判断するよりも、今後数々の追試が行われた方がもっともっと益があると言える。ゆえにこれより後のデータを略す。  
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